君子未然に防ぐ―地震予知の先駆者今村明恒の生涯 (TUP叢書)

君子未然に防ぐ―地震予知の先駆者今村明恒の生涯 (TUP叢書)

関東大震災のあたりをちょっと調べていて読む。
関東大震災そのものは1905年に実は地震学者今村明恒によって予見されている。今村は、地震学者の先駆けの一人。地震のもたらす災害をいかに防ぐか、に意識的な人だった。
だから近いうちに関東地方に大きな地震がくるであろうという自説に従い、消防システムの充実や都市計画などを提言する。の、だけれど、今村の提言は、上司である大森房吉につぶされてしまうのだよね。今村の研究は「浮説」として片付けられ、今村自身も研究者として非常に大きな痛手を負う。

しかし、1923年、関東大震災がおこる。今村の説は、もっとも皮肉な形で、多数の人間の犠牲と引き換えに証明されてしまうわけだ。

学説のぶつかりあいや、大学内の政治がいかに「外の世界」に大きなインパクトを与えてしまうか、という意味で、このストーリーはしばしば「寓話」として語られる。大森は今村よりたった2歳年上だったにも関わらず、英語圏のレクチャーなんかだと「ずっと年上の大森が今村の学説をねじふせた」みたいな語られ方をしていたり。歴史が寓話に変わっていく瞬間を見たような気分で面白い。